2014年1月5日日曜日

日米世相比較学会の年頭報告

北村 隆司(きたむら りゅうじ)
2014年1月吉日、ニューヨークにて

築地の魚取引ではマグロが立役者
会員資格を私一人に限定する超エリート学会として2003年に発足した当学会も、お陰さまで2013年を無事に過ごす事が出来ました。これも皆様のお陰だと感謝しております。

その2013年は築地で行われた年初競りで、222キロの大間産クロマグロが15,540万円で競り落とされた事に始まり、東京証券取引所の大納会で、田中角栄元首相の「日本列島改造論」で沸いた1972年以来、実に41年ぶりに年間株価上昇率を更新して終る景気の良い年となりました。

長期に亘る経済社会の低迷で覇気を失い、平凡への道をひた走って来た日本が、株価上昇で活力が取り戻せるとすれば、それだけでも安倍内閣の価値はあります。

故ネルソン・マンデラ
昨年の日本は経済だけでなく、富士山のユネスコ世界遺産登録2020年の東京オリンピック招致などが決まり、文化、教養面でも意義のある年で、オバマ大統領の二期目の就任や安倍首相の靖国参拝など記憶に残るエピソードも盛り沢山でした。


中でも忘れられないのは、28年間も独房に幽閉されながら釈放後は復讐の気持ちを捨て、民族和解に全力を尽くした南アフリカのマンデラ元大統領の逝去でした。

謝罪を受け感無量のコレマツ
人種差別や偏見との闘いと言えば、米国籍を持ちながら強制収用された日系人に、米国政府から謝罪と補償を勝ち取ったフレッド・コレマツの孤高の闘いも思い起こされます。
米国政府の特赦提案に対し「許すとすれば、私が国を許すのであり、政府が嘗ての間違いを認め、今後は二度と差別をしない事を約束して欲しい」と求めた彼のエピソードは、現在の日韓関係の参考になるかも知れません。
その日本で「新大久保のゴキブリの皆さんこんにちは!こちらは『全日本・社会の害虫を駆除しよう清掃委員会』のデモ隊です」などと連呼するヘイト・スピーチが横行している事は、誠に恥ずかしい限りです。

この様なヘイト・スピーチを知ると「喫茶店に行ったら向かいのテーブルに黒人が座ってたんだけど、コーヒーを注文するときに『ブラック』って言ったら、その黒人に睨まれ、コーヒーが運ばれてきて飲んでみたら濃すぎるので、『苦(にが)っ!(nigger は黒人への蔑称)』って言ったら殴りかかられて大変だったよ」と言う軽口を叩くのも憚られます。

昨年の米国には色々ありましたが、個人資産が1兆円を超える大金持ちが40人以上も誕生したかと思うと、生活補助の必要な貧困階級が全国民の16%(子供だけをとれば 20% )にも達する格差の拡大は困ったものです。

シェール・ガスのお陰で復活が伝えられる米国の製造業もその実感はありませんし、『メード・イン・ジャパン』の存在感もいまひとつです。

そこで今年は、これ等の『世相』を混ぜ合わた軽口話を作ってみました。

破産したデトロイト市
オバマ大統領の移民政策の恩恵を受けて市民権を得たフェルナンデス(Fernandes: コロンビア出身)は、それまで住んでいたデトロイトが破産して仕舞ったので、金融都市ニューヨークに移り超高級レストランの見習いの職を手にいれた。

古い目覚まし時計(韓国製)のアラームで起床し、買ったばかりの歯ブラシ(ベトナム製)で歯を磨き、電気カミソリ(中国製)で髭を剃ッた後、石鹸(インド製)を使って顔を洗ってタオル(バングラデッシュ製)で顔を拭きながら、古ぼけたパーコレーター(台湾製)コーヒー(コロンビア産)を沸かした。

それからいつもの通り、トルテイア(メキシコ産)トースター(中国製)で焼いて食べた後、電卓(日本製)で未払いの請求書の残高を計算する。

腕時計(台湾製)ラジオ(中国製)の時報で合わせ、外出用のサンダル(ブラジル製)を履いて最寄の駅まで歩き、満員の地下鉄(カナダ製)にゆられて職場に向かう。

準備で忙しいレストランのキッチン;本文の見習いシェフとは無関係
職場に着くと、店支給の靴(インドネシア製)に履き替え、ボスのシェフ(イタリア人とフランス人)の指示に従い、冷蔵庫(ドイツ製)からHerb Cured Scottish Salmon(スコットランド産)Mosaïc of Capon, Foie Gras (フランス産)Tai Snapper Ceviche with Satsuma Mandarin and touch of Wasabi (鯛はギリシャ産、ユズとワサビは日本産Connoisseur Caviar (50グラム470ドルするロシア産)Roasted Québec Suckling Pig Chop (カナダ産) Duo of Seared Wagyu Tenderloin Beef (米国産の牛肉の三倍以上するオーストラリア産「和牛」)など、前菜やメイン・コースの食材を準備する。

食材の準備が終ると、カット・グラス(チェコ製)クリスタル・グラス(アイルランド製)を磨き上げ、地下のワインセラーから常連客のヘッジ・ファンド・マネジャーから指定されたChateau D’Yquem 1918年物(11万ドルのフランス産ワイン)を取り出し、指定の場所に置く。

そして食器庫(イタリア製)にあるロイヤル・コペンハーゲン(デンマーク製)の中から、今日のお客様お好みの、古伊万里風染付の手描きの絵柄の食器を用意する。

その後、ドアマンの制服(バングラデッシュ製)に着替えて玄関口で客を待つ。
夜の世界が始まる黄昏のニューヨーク
シャネル(フランス製)プラダ(イタリア製)等のファッションで着飾った女性をエスコートした紳士が、ランボルギーニ Aventador (5千万円イタリア製)ロールスロイスPhantom (4千万円イギリス製) ベンツCL-Class(2千万円ドイツ製) などの高級車から降りる処を見計らい、丁重にドアーを開けて迎える。

仕事が終わり、疲れた身体を引きずりながら自宅に戻ると、豆料理(メキシコ産)をつまみながら、旧式のテレビ(タイ製)をつけて考える:
「アメリカ製品がこれだけ少ないのに、金持ちのアメリカ人はどうしてこうも多いのだろうか?」
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リーマン・ショック以後は『メイド・イン・ジャパン』がめっきり減った以外は、格差と物造り地獄の状態が変らないのがアメリカの笑えぬ現実です。

2 件のコメント:

  1. 北村さんの軽口話は、彼の博学多識を見事に物語っています。それにしても、アメリカ産業の空洞化は、国益を軽んじて利益追求に汲々としている大中企業の会長を含めて営業幹部の大責任です。

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  2. パチパチパチ! 多才な隆司さんの面目躍如です。 楽しく拝読しました。

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