2014年4月30日水曜日

ラーメンの食べ方指導

(先日公開した『ニューヨーク・ラーメン、繁盛記』の付属記事から)

「ラーメンの食べ方なんて、今更、、、」とおっしゃるでしょう。ご尤もです。でもこれはラーメン通のガイジンが、ラーメンに馴染みのないガイジンに教えているという筋書きなのです。そのお手本を示しているのはイワン・ラーメン・スラープ・ショップ(Ivan Ramen Slurp Shop)の店主イワン・オーキン(Ivan Orkin)です。そうした状況を念頭に、高みの見物をなされば、また格別なご興味を味わっていただけるでしょう。編集:高橋 経

イワン・ラーメン・スラープ・ショップの代表的な品目。冷めない内に頂きましょう。

先ず、少量のソバを箸ですくい、スプーンで下部を支え、、、

ズルズルと吸い込むと、空気が熱いソバを冷ましてくれる。

汁を一さじ、(ブタ、トリ、サカナ、いずれかの)風味を堪能する。

肉など、汁の中でかき回さずつまみ上げ、噛み付く。

噛み残した肉を、丼の汁に戻しても構わない。

タマゴの黄身はよく茹だってややクリーム状で、スプーンですくい箸を使って食べる。

食べ終わるまでの所要時間は6〜10分ぐらいが理想的、とはベテランの説。

食事中は無念無想、「ウワの空」で食べることは禁物、ソバが冷めてしまう。

肉などの添え物をソバと混ぜてかき回すのも禁物。

口に入り切れないほどのソバにかぶりつくのも禁物。お解りかな?

2014年4月23日水曜日

ニューヨーク・ラーメン繁盛記

NYT紙、ピート・ウエルズ(Pete Wells)の探訪記事より抜粋

ラーメン』とは、『らーめん』、『老麺』、『拉麺』、『柳麺』、『中華そば』が国際的な地位を確立して一般化した名称である。原則的には、豚骨を長時間煮込んで味付けされた汁に、沸騰した湯に独特の麺を的確な時間をかけて茹でて汁の丼に投入し、焼豚の切り身、メンマや刻みネギをあしらい、好みによって胡椒または唐辛子を振りかけ、汁が冷めないうちに、新鮮な割り箸(竹または木製)を巧みに操り、麺をズルズルとすすり込み、丼に汁を残さず飲み干すのが、シェフに対する礼儀である、とされている。

本来、中国の食べ物だったが、明治前後に日本へ伝来してから、本場の中国より人気が沸騰し、カレーライス(『ライスカレー』とも言う)と首位を争う程に日本人庶民の食生活に定着した。食生活としてのラーメンの地位は、「美味で安価」であることに尽きる。従って、『高級ラーメン』であってはならないのだが、料理人たちが競って『独特な味』を生み出した結果、一部の高級化は避けられなかったようだ。

特に国際都市ニューヨーク市で、無数のレストランに混じってしのぎを削って生き残るためには、移り気で食道楽な市民たちの舌を満足させる必要が第一条件になる。かくして勃興したニューヨークのラーメン屋を、私(ウエルズ)は、片っ端から賞味して歩いた。いずれ劣らぬ『美味にして安価』な料理人の腕前には感嘆し、甲乙が付け難かったので、下記10店をご紹介する。採点は、各自の好みによって判断を下していただきたい。



※ ムー・ラーメン(Mu Ramen):濁った汁が特長。ピリッとした味噌ラーメンが私の好み。Long Island City, Queens. 番地と予約は電話で: 917-868-8903, または email, MuRamenNYC@gmail.com.


※ アイヴァン・ラーメン・スラープ・ショップ(Ivan Ramen Slurp Shop):塩味と菜食ラーメンが特長。Gotham West Market, 600 11th Avenue (44th and 45th Streets), Hell’s Kitchen; 212-582-7940; ivanramen.com.


※ たかし(Takashi):オリジナルとお婆ちゃんの辛味ラーメンが特長。456 Hudson Street (Barrow Street), West Village; 212-414-2929; takashinyc.com. After midnight Fridays and Saturdays by reservation; email ramen@takashinyc.com.


※ ひでちゃん(秀ちゃん:Hide-Chan):辛味黒み、醤油カツオ味ラーメンが特長。248 East 52nd Street (Second Avenue), Midtown; 212-813-1800; hidechanramen.com.


※ トット・ラーメン(Totto Ramen):辛味ラーメンが特長。366 West 52nd Street (Ninth Avenue), Hell’s Kitchen; 212-582-0052, and 464 West 51st Street (10th Avenue), Hell’s Kitchen; 646-596-9056; tottoramen.com.


※ いっぷうどう(一風堂 Ippudo NY)NY:あかまる(赤丸?)モダン・ラーメンが特長。65 Fourth Avenue (East 10th Street), East Village; 212-388-0088, and 321 West 51st Street (Eighth Avenue); 212-974-2500; ippudony.com.


※ ハンジャン(Hanjan):韓国風辛味ラーメンが特長。36 West 26th Street (Avenue of the Americas), 212-206-7226; hanjan26.com. After 9 p.m.


※ かじつ(果実?Kajitsu):精進ラーメンが特長。125 East 39th Street (Lexington Avenue), Murray Hill; 212-228-4873; kajitsunyc.com. Lunch only.


※ ラーメン・さんしろう(三四郎?Ramen Sanshiro):塩味ラーメンが特長。Inside SEO, 249 East 49th Street (Second Avenue), Midtown; 212-355-7722. After 11 p.m.


※ バッサノヴァ・ラーメン(Bassanova Ramen)NYC:76 Mott Street (Canal Street), Chinatown; 212-334-2100; bassanovanyc.com.


2014年4月16日水曜日

春のおとずれ:草木の話

志知 均(しち ひとし)
2014年4月

今年の冬のミシガンでは記録的な降雪があった。その雪が溶けた後の、四月から五月へかけての自然の変化は素晴らしい。木々の枝が赤らんでくると、やがて若葉が顔を出し、しばらく気が付かないうちにすっかり新緑の春になっている。植物が新しい生命活動をはじめる。我々は花や草木を文学や美術の対象として愛するが、植物が自己防衛や生存のためにお互いに助け合っていることなど、その生態については知らないことが多い。そこでこの小文では、生物としての植物についての興味ある話題をいくつか紹介しよう。

ネナシカズラ
   まずは自立心ゼロの植物の話。北アメリカのいたる所で見られるネナシカズラ(dodderと呼ばれる。ラテン名はCuscuta pentagona)は五弁の白い花を咲かせる可憐に見える植物だが、根もなく、光合成のための葉緑素も持っていない。つまり土中の無機栄養素もとらず、エネルギー源の糖類も作らない。生存のためには、ほかの植物に巻き付いて茎に穴をあけ栄養素を吸収する完全な寄生植物である(ヒトでもこんなタイプがいますね!)。興味あることに、どんな植物にでも巻き付くのではなく、トマトなど特別の好みがある。

ベータ・マーセンの化学物質の模型
   トマトを栽培したことがある人ならご存知と思うが、生育中のトマトは特殊な匂いを発する。ネナシカズラがトマトを好むのはその匂い物質ベータ・マーセン(beta-myrcene)に惹き付けられるからである。小麦もベータ・マーセンを放出するが、ネナシカズラが嫌う物質ヘキセ二ル・アセテート(Z-3-hexenyl acetate)も放出するので、小麦には取り付かない。相手の匂いによって好き嫌いが決まるのは動物に似ている。匂いは植物がコミュニケーションする『ことば』であって、春たけなわ、新緑の匂いに空気が満たされるのは植物同士が盛んに「話し合っている」証拠である。

   匂い、即ち揮発性物質によって情報伝達するのは、動き回れない植物の自己保存、種保存にとって特に重要である。イモムシが柳の木に取り付いて葉をたべると、障害を受けた葉が揮発性物質を放出し、自分の他の葉だけでなく、近くに生えている仲間の柳の木に知らせる。この情報を受けた健康な葉はイモムシが嫌う物質、フェノール酸タンニンを合成し食べられないようにする。同じようなイモムシ対策は、ポプラ、サトウカエデ、オオムギなどでも見られる。植物が揮発性物質を感知するのは、まさに『臭覚』と言えるが、大脳も中枢神経ももたない植物がどのようにして匂いを感知するのかそのメカニズムについてはまだよく判っていない。

根に土壌菌を共生させる器官
   植物は、情報伝達を地上だけでなく地下でも行っている。四億七千万年前に植物が地上で生育、繁殖できるようになったのは、土壌の栄養物を根から吸収できたからである。それに欠かせなかったのは、土壌微生物との共生で現存する地上植物の80%以上が、根に土壌菌を共生させるための特別な器官(mycorrhizaeと呼ばれる)を形成している。植物は菌からリン、マグネシウムなどの無機物をもらい、菌は植物が光合成する栄養物をもらう。土壌菌の中には繁殖のために『キノコ』を形成して地上に顔を出すものがある。松茸や椎茸はそのたぐいでキノコの傘の下にできる胞子をまき散らして繁殖する。

情報の伝達物質abscisic acid
   地下での情報伝達の例として、マメ科の植物は、干ばつの兆候を感知すると水分を失わないよう葉表面にある気孔を閉じるが、同時に干ばつの警報を近くに生えている仲間に伝える。その情報の伝達物質(abscisic acidなど)は植物の根と根をつなぐ土壌菌の糸状ネットワークを通して伝えられるようだ。同じような地下での情報伝達は木と木の間でも行われているにちがいない。2009年の空想科学映画アヴァター(Avatar)で、月(パンドラ)に密生する植物が根から根へ情報伝達しているのを見て、シナリオライターの空想に感心したことを覚えている。

   植物が、風による葉擦れの音だけでなくそれ自身で音を発することが知られている。それに注目した研究者は、植物は音を情報伝達に使っているのではないかと云っている。例えば、トウモロコシの苗を水中栽培するとカチカチ音を発する。その音をテープにとって苗に『聴かせる』と、根が音のする方向へ曲がるという。更なる研究が必要だが、音は伝播が早くて確かで有効な伝達手段になりうる。植物がどのようなメカニズムで特定の波長の音を感知するのか興味ある課題である。

   植物が、害虫の襲来や干ばつの危険などを仲間の植物に知らせるのは『知的行為』といえよう。知的行為は、動物に限られていると考えられてきたが、自己防御の点で植物は我々が想像する以上に動物に似ているようだ。まさかと思われるかもしれないが、植物にも病原菌感染に対処するための免疫機能が存在する。

   免疫には大別して、進化的に古い先天性免疫(innate immunity)と新しい適応性免疫(adaptive immunity)の二種類がある。適応性免疫は抗原に対する特異抗体を生成する細胞や、抗体を作る記憶を維持する細胞が関与する免疫で脊椎動物にしかない。先天性免疫は動物にも植物にも存在するが、病原菌に対する特異性やそれを記録する機能はない。ヒトを含む動物が病原菌に感染すると、先天性免疫で菌の細胞壁にある物質(脂質多糖類、LPS)を細胞膜にある受容体(TLR4とよばれる)によって感知する。

タンパク質フラジェリン
   それに続いて細胞内でいろいろな酵素が活性化され感染への準備をする。植物の病原菌感染の場合には、菌がもつ鞭毛のタンパク質フラジェリン(flagellin)細胞膜受容体(FLS2とよばれる)で感知し、動物細胞の場合と同じように一連の酵素を活性化して感染への準備をする。

TLR 4
   興味あることに、動物、植物の受容体(TLR,FLS2)は構造に似たところがあるばかりか、病原菌を感知して示すリン酸化反応や機能が終わって分解されるときの反応(ユビキチンというタンパク質が結合して分解される)も、きわめて類似している。動物と植物は十億年前に分かれてから別々に進化の過程をたどってきたのに、これほど類似した先天性免疫メカニズムを保持してきたことは驚きである。

   花の香りや新緑のむせかえるような匂いは植物同士がおしゃべり(情報交換)に忙しい証拠であり、また植物も動物に似た自己防御の免疫をもっていることを知ると、生物としての花や草木に対するわれわれの従来の見方が変わってくる。
耳すませ 萌える若葉の ささやきに  (作者未詳)

2014年4月9日水曜日

ルーニィ:浮き沈みの生涯に幕

去る日曜日、4月6日、俳優のミッキー・ルーニィ(Mickey Rooney)が93歳で亡くなった。ルーニィと言えば、唱えて、踊れて、ピアノを弾き、ドラムを叩き、芝居ができ、子役から始まり、老け役をこなした俳優として知られている。その浮き沈みの激しい生涯をここで語るには余りにも多くのエピソードがあるので数字で示すことにした。詳しい伝記は、ルーニィの自伝『人生は短し(Life Is Too Short)』でお読みいただきたい。まずは冥福を祈る次第。 編集:高橋 経 (資料は主にニューヨーク・タイムズ紙から)


数々の受賞を顧みるルーニィ(2011年頃)

数字で示すミッキー・ルーニィの生涯

  • 2歳(17ヶ月)でバーレスクでの初舞台。
  • 6歳でMGM映画に初出演。
  • 1936年、子役としては破格の週給2千500ドル。
  • 17歳から24歳まで、アンディ・ハーディ(Andy Hardy)役で人気を獲得
  • そのシリーズが上げた興行収益は7千5百万ドルで、ルーニィ主演の映画は一位を続けていた。
  • 1937年~1944年当時の貨幣価値は、入場料が25セント
  • 40歳までに1千2百万ドル・スターになったが、ギャンブル、派手な生活、飲酒、競馬馬の投資など出費は収入を上回った。
  • この8年間に36本以上の映画に出演した。
  • 28歳、少年役で受けた短躯のルーニィにふさわしい役柄がなく、収入が途絶えた。
  • ラス・ヴェガスの舞台に立ち週給1万7500ドル稼いだが、その倍の金をギャンブルに注ぎ込み借金が膨れた。
  • 40歳代に破産。
  • 生涯で200本以上の映画に出演、アカデミー特別賞1回、アカデミー賞候補4回。エミー賞候補5回、内1回受賞
  • 42歳でバーバラ・トマソン(Barbara Thomason)と5度目の結婚、3人目の息子が生まれた。当時の所持金500ドル、借金50万ドル、滞納税金10万ドル。(付記:3年後に離婚したバーバラは、嫉妬に狂った愛人に射殺された。)
  • 結婚8回、離婚7回は、エヴァ・ガードナー(Ava Gardner)と1年間の結婚を含む。
  • 1978年、8度目の結婚相手はカントリー歌手、ジャン・チァンバリン(Jan Chamberlin)。この頃から断酒、クリスチアンに生まれ変わり、生活が安定した。
  • 59歳でブロードウエィの舞台シュガー・ベィビィズ(Sugar Babies)1979年』に復活出演、3年続いたこのショーで再び脚光を浴びた。
  • 1983年、過去60年に及ぶミッキー・ルーニィの芸能人生を賞賛するアカデミー名誉賞が授与された。
  • 昨2013年、義理の息子夫妻から『老人虐待』を受けたことの訴訟事件に勝訴し、2千8百万ドル支払われることで和解した。
  • 93歳で死亡(1920年9月23日~2014年4月6日)

回顧アルバム

2歳(17ヵ月)のルーニィ、バーレスクでの初舞台。

スペンサー・トレーシー主演、『少年の町(Boys Town: 1938)』に共演。

ルーニィ21歳の誕生日祝い。右はエヴァ・ガードナー、左はMGMのルイス・メィヤー。

ジュディ・ガーランドと数本撮った共演の一つ、『ブロードウエーの赤ん坊たち』。

エリザベス・テーラーの出世作になった『ナショナル・ヴェルヴェット:1944』。

第二次大戦中徴兵され、戦場で兵士達を愉しませるルーニー。

短躯というハンディを退け、活発な演技で売ったルーニィ:1957年。

落目のルーニィがオールスター映画『It’s a Mad, Mad, Mad, Mad World:1963』でバディ・ハケットと共演。

2009年、第二次大戦記念館の開館式でトム・ハンクスと握手するルーニィ。

2011年『老人虐待」の聴聞会で自己の体験を陳述。

死ぬまで続いた8度目の結婚相手ジャンと二人で安泰な老後。演技は止めなかった。


2014年4月3日木曜日

遥かに望む富士;八景

最近世界的に認められた富士山の美観は、日本人にとって珍しくないかも知れません。でも、眺める位置、その瞬間の時刻、また季節によって違ってきます。かつて北斎や広重が様々な場所や情景を盛り込んでで数多くの傑作を残しています。本日掲げる写真は、スダ・ツギウラ、タクヤ(Suda Tsugiura, and Takuya)の両氏が撮影し、Spoon & Tamagoというサイトに掲載されたものから転載いたしました。撮影場所の記載はありませんでした。ご推察の上ご観賞ください。編集:高橋 経