話は1950年代にさかのぼるが、人食い人種として知られるパプア・ニューギニア(Papua New Guinea)のフォア族(Fore)の部落民、特に女、子供が一年間に200人以上も原因不明の脳疾患クル病(kuru disease: ビタミンD不足でおきる狗屡病(rickets)とは無関係)で死亡していることが報告された。病原性バクテリアやビールスによる感染の痕跡はなかった。フォア族には病気で死んだ親族の脳組織を食べる習慣があることが人類学者の調査でわかっていたため、脳の中に未知の病原体が存在するだろうと推測された。
パプア・ニューギニア(左)とガジュセック
私は、NIH(National Institute of Health: 国立衛生研究所)に勤務していた1970年頃に、カールトン・ガジュセック(Carleton Gajdusek)のクル病のセミナーをきいてたいへん興味をもった。ガジュセックはインディアナ・ジョーンズのような研究者でニューギニアのジャングルの奥にあるフォア族部落を訪れ,クル病で死亡した患者の脳組織をNIHへ持ち帰った。彼はその組織の抽出液をチンパンジーの脳に注射してクル病が発病することを示した。抽出液中の病原体は確認できなかったが、脳組織の病理所見が、病原体不明のもうひとつの脳疾患であるクロイツフェルド・ジャコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease, CJD)にきわめて類似していることを指摘した。それは脳組織がスイス・チーズやスポンジのようになる病変で、これらの病気はスポンジ型脳障害(spongiform encephalopathies)と総称されている。ガジュセックはクル病その他の研究で1970年にノーベル賞を受賞した。
脳障害の病原体の仮説
スポンジ型脳障害の病因については、遺伝子変異説、免疫説、毒性環境因子説など多様な説が出されたが、いずれも確証されなかった。1982年にカリフォルニア大学のスタンレー・プルシナー(Stanley B. Prusiner)は全く新しい発想から脳障害の病原体は、本来病原性のないタンパク質が特殊な異質構造になった時病原性になるとする仮説を発表した。当時、感染病の病原体はバクテリアやビールスなど遺伝情報因子(DNA, RNA)を持っており、感染により増殖するものとするのが常識であったから、感染性でしかも増殖するタンパク質病原体の仮説はほとんどの研究者に受け入れられなかった。
素人考えですが、どうやら酒やタバコを控え、粗食に甘んじ、規則正しい生活をし、適度に運動することで病気を避けられるような気がします。
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